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「鳴子こけし」職人親子が育む、癒しの笑み―ニッポンのヒャッカ第14回―


東北の山間部に生まれた伝統こけしは、大きく11の系統に分けられ、地域ごとに特徴的な形や、胴模様が育まれてきたという。なかでも雪深い宮城県鳴子温泉は東北最大のこけしの産地で、「鳴子こけし」の里として知られている。

 その鳴子こけしの里で、先祖代々こけしをつくり続けるのが「桜井こけし店」だ。伝統的なこけしをつくる職人として活躍する五代目櫻井昭寛さんと、その息子で六代目の尚道さんに、話を伺った。


「『鳴子系』と呼ばれるこけしは、大きな頭で肩に段があり、胴の中程がややくびれた安定感のある形、正面から見た胴の下部に、大輪の菊を描く特徴があります。首と胴を別々につくり、首を胴に差し込んだ『はめ込み式』の構造も大きな特徴で、首を回すとキイキイと音を出すのも、鳴子ならではです」と、尚道さん。

六代目の尚道さん。一度は家業を継ぐことには反対されたが、26歳から本格的に製作を始めた

いわゆる「こけし」と言えば思い浮かぶ、象徴的なイメージを代表しつつ、華やかさの中に清楚さが感じられる鳴子こけし。

 鳴子こけしの頭部にある「水引手」という模様は、京都の御所人形に由来すると言われ、お祝いのために作られた人形の描彩様式だとか。そのため、鳴子こけしは、子どものすこやかな成長を願う「お祝いの人形」として、子どもの誕生祝い、結婚祝いなどの贈り物として古くから親しまれてきた。

愛らしくも気品あふれる、こけしのお雛様を桜井こけし店では「ひいな」と呼んでいる

伝統に加えるのは、その代の「自分たちらしさ」

鳴子のこけし工人たちは、その家々で受け継いでいる形やつくり方、こけしづくりに対する考え方をこけしに表しているという。
では、鳴子こけしは、それぞれの工房にどんな違いがあるのだろう。

 五代目の昭寛さんは言う。
「おみやげこけしが人気だった時代に、他のこけし屋さんは大柄な描彩が多くなりましたが、櫻井家の先代達は共通して繊細な描彩を描いていたため、それを今に受け継いだ伝統こけしをつくり続けています」
 一般的に、こけし工人として一人前になるのに10年と言われるが、桜井家では「10年ではただつくれるというだけ」だという。先代の残した「これで覚え上がったということはない。一代一生の稽古だ」という教訓こそ、櫻井家のこけしづくりの姿勢そのものなのだ。

 そして、その一方で「挑戦が店の伝統」だとも。

「伝統を受け継ぎながらも、常に新しいものに挑戦してきたのも櫻井家です。その根底には、先代のひとり大沼岩蔵の存在があります。
 岩蔵は、新しい技術を柔軟に取り入れ、多彩なこけしを生み出してきました。ビリガンナという技法を取り入れたり、描彩に紫を初めて使ったのも岩蔵です。帽子をかぶったこけしである鉄カブトや、ろくろ線の胴模様のものなど、いま見ても魅力のある多くのこけしを生み出しています。
 この岩蔵の思想が根底に流れている櫻井家は、その代ごとの工人の手によって、新しいこけしがつくられ、次の世代へと発展しているため、櫻井家は、伝統こけしの他にも製作している種類が多岐に渡ります」

五代目の昭寛さんと、手がけた「ヘリテイジ」と名づけたシリーズのこけし

先代や師から受け継いでいるこけしのことを「伝統こけし」と呼ぶ。
親から子へ、師から弟子へと受け継ぐのは、技術や伝統だけではない。

「伝統こけしには、そのこけしをつくった先代の名前がついている「型」というものがあります。とりわけ、櫻井家は受け継いでいる型が豊富です。手がけた工人の名が付いた「岩蔵型」「万之丞型」「健三郎型」と呼ばれる型は、それぞれが個性豊かな形状、描彩をしています。
 私たちが型を製作するということは、先代のこけしをそのまま模倣することではありません。伝統こけしを手がける時、いつもその根底には、櫻井家の先代達への尊敬や愛情があり、背景を想像し、理解して、自分なりの形にしようと取り組みます。先代のこけしとどう向き合うのか、想いをどう読み取るのか、工人ごとの感性の違いが、自然と個性として表れます。そこには、つくり手それぞれの生き方がそのまま映し出されるような奥深さがあり、それが伝統こけしの魅力となっていくのだと思います」

伝統の継承と同時に、常に新作にも挑戦している昭寛さんと尚道さん親子。
 「新たなこけし」の構想もあるようだ。


「いま製作しているものから発展させていき、新しい表現の伝統こけしやお雛様を生み出していきたいです」と父。

「伝統こけしにおいては、現在はまだまだ未熟ですが、師である昭寛や先代達のような、風土、伝統がありながらも、自分の個性を持ったこけしをつくれたらという想いで取り組んでいます」と息子。

桜井こけし店では、少しでもこけしを身近に感じてもらえるように、こけしづくり体験も行っている

櫻井家では、人びとの暮らしにゆとりや豊かさが生まれることを願って、日々こけしづくりに向き合っている。
 日々の生活の中、仕事の中で、疲れた時、悩んだ時、何にもないふとした時。
 何も言わず、ただただ寄り添ってくれるような、そんな存在だ。

 こけし選びは、純粋に「気に入ったこけしを選んでいただければ」と、尚道さん。
 そして、そのこけしが生まれた風土や工房、つくり手のことを少しでも知ると、選ぶ楽しさのひとつとして感じていただければと言う。

桜井こけし店では、先代・昭二さんの意志を受け継ぎ、植林、こけしの皮むきや、こけしづくりまで体験できる。
 今日も優しく、伝統と日々の暮らしの中にたたずむ鳴子こけし。
 それ無垢なほほえみが、人びとをつないでいる。


桜井こけし店:公式サイト

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